セイイチは、今まで恋愛をしたことがない。
切ない、という思いも、よくわからない。
これから、自分はどういう方向に
行くんだろう、そんなことをつぶやく20代だ。
ここ何年も店にはよく来てくれていて、
自粛中も「大丈夫ですか?」という
連絡をくれたりしていた。
そして先日来てくれた時に、
こんなコロナのさなか、
僕よりも若い彼のお父さんが亡くなった
という事を耳にして、本当に驚いた。
その前後に店でも会っていたし、
いつもと変わらぬ笑顔で接してくれていて、
まさかそんな事が起こっているとは
思わなかったのだ。
そもそも喜怒哀楽の喜びや楽しさは
表現するけれど、あまりネガティブなことを
全面に出すタイプではない。
心配させると思い、気を使って、
それを口にしなかったのか、
それとも、触れたくなかったのか。
もちろん、人が亡くなった話を
根掘り葉掘り聞くことでもないし、
セイイチと僕がそこまで深い関係だ
というワケではないので、
ある意味、大きなお世話なのだが。
昨夜は、顔見知りの数人がいる中だったので
大丈夫だったのかと、尋ねると
とにかく長男で葬儀のことなど
バタバタしており、なおかつ
悲しみよりも驚きのほうが大きかった、
そう答えていた。
僕は父が死んだ時も、母が死んだ時も
その悲しみは、言葉では言い表せないほどで
その後の空虚感もひどかった。
そして一瞬、僕自身が、セイイチの
お父さんとの別れを、彼がまだ
恋愛未経験であることと、どこかで
結び付けていないか、と考えている自分がいた。
しかし、それは間違いかも知れない、と
即座に頭によぎった愚かな思いを反省した。
人の死に対する思い、考え方、感じ方は、
当然ながら人それぞれだ。
人が死ぬ=悔やむ、ということも
まったく当然ではないし、
その悔み方だって、人によって全然違う。
セイイチに限らず、その心の奥底に
あるモノ、というのは誰もわからないし、
わかる必要がないのだ。
当然ながら、それはこうであるべき
ということもなければ、正しい見送り方などもない。
セイイチのお父さんと前後して
先日ここにも書いた旧友のお母さんの逝去。
その際と同様、僕が僕の中だけで、
冥福を祈れば良いのだ。そう思った。
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