また神戸の母の元に来ている。
年末に担当医から
「どこも悪い訳ではないけれど、
老衰でいつどうなってもおかしくない状態」
そう言われて、覚悟をしていたら、
正月を過ぎて、元気を取り戻した。
そしてなんだかんだ言ってもう5月だ。
毎月のように顔を見に来るのだが、
確かにそのたびに弱々しくなっていっている。
今回は来るたびに僕が何とか
ゆっくりと食べさせている
流動食もほとんど食べられない。
熱が出たり、痰が喉に詰まったり、
時折苦しそうな表情をしながらも、
ほとんど目も開けることもなく、
こんこんと眠っている。
手を握りながら、
耳元で色々な話をするけれど、
寝息をたてながらも、
たまに手を強く握り返してくれる。
もうそれほど長くはない。
そんなふうに思いながらも、
それでもこの母の生命力を見ながら、
たぶんまだ死ねない、まだ何かこの世に
やり残したことがある、
そう思っているのだろうと思う。
それはひょっとすると僕や、妹なんかに
まだ少しだけ勇気を与えてくれようと
頑張ってくれているのかも知れない。
介護士の方が、チューブで痰を取ろうとしたり、
ちょっと無理して食事を食べさそうとすると、
目を閉じながらも、眉間にシワを寄せ、
辛そうな顔をする。
もう、無理なことはさせたくない。
しなくていい。
お袋が自然のまま、安らかな気持ちで
その日を迎えることが一番なんだろう。
つい去年くらいまでは、あらゆる感情的な思いが
僕の胸の中をたくさん交差した。
もちろん、その日が来たら、
また大きな感情の揺れが訪れるかも知れない。
ただ、今はゆっくりとお袋に迎えが来ること、
そしてそれを柔らかな笑顔で
お袋が受け入れられることを
祈るばかりだ。